農園みづち
伊藤竜太郎
1990年新潟市に生まれ育つ。
東京農業大学地域環境科学部造園科学科に入学し自然保護を学ぶ。
先輩の修士論文制作の手伝いのため佐渡に滞在したことがきっかけとなり、
25歳で佐渡に移住を決め米作りに取り組んでいる。
佐渡との出会い
新潟生まれであり佐渡の島は身近な存在ではあったと想像できるが、どんなきっかけで移住まで決意することになったのだろうか。
「一番の大きなきっかけは大学時代の先輩の論文の調査の手伝いですね。」
島の中央にあたる新穂・畑野地区の家々を訪問させてもらっていた。
「7割がピンポン鳴らない。人が不在でした。」
お年寄りが多く、老いていくということに自分の将来への老いを重ねてこの土地で暮らし命を終えて果てていくというのが
想像できたと話す伊藤さんはなんともアーティスティックな考えの持ち主であった。
「実は父が運送業で働いていました。
当時のことはうっすらとしか覚えていないですが、幼い頃トラックに乗せてもらい佐渡を訪れていたそうなんです。
到着すると佐渡乳業のアイスクリームを買いに行ったことがあると父が最近話してくれました(笑)」
大学時代には能登や富士宮、平塚、佐渡などさまざまな地域で研究活動を行なっていた。
その中でも住んでいた地域から身近にあった佐渡だが幼い頃と大人になって見た光景はまるで別世界だったそう。
幼い頃から佐渡はご縁のある場所だった。
米作りをするということ
「高校時代に生物の先生から里山が好きなんじゃない?と言われたことがあった。
自然も好きで古風な言葉にも惹かれていたのでこれだと思った。
大学に入学してから研究者になって里山を守っていきたいと思っていたが、
実際は現場に入っている人が環境を守っている。」と話してくれた。
大学時代での研究や人との出会いを経て辿り着いた境地だった。
「先輩の論文調査とは別に大学の講座で佐渡に再訪した際、生椿(はえつばき)という地域で高野さんという方にお会いしました。」
高野毅さんは父の代から代々受け継いできた自身の棚田にトキが生息しやすい環境を守っていた。
それを受け継ぎながら、そこへ訪れる方たちに自然と共生する暮らしや楽しさを伝えている方である。
「その日は霧がかっていて鳥の鳴き声もよく響いている光景の中で、菅傘を頭に被っている高野さんが印象的でした。」
まるで昔の日本にタイムスリップしたかのうようだと話してくれた。
伊藤さんはそんな佐渡では米作りがしやすそうだなと実感した。
なぜ米作りを始めたのか?問うと
「自然環境が素晴らしいと感じたのは佐々木さんの田んぼに伺った時です。」
日本酒に感動し米作りを始め今では生きものと共生を目指して自然栽培に取り組んでいる
佐々木邦基さんの田んぼに訪問する機会があった。
「私が普通に生きてきた中では見たこともないような大きなクモが大量にいたのが印象的でした。
とても自然が豊かなところだと思いました。そういった自然環境の豊かさと、
農家の環境への意識の高さが自然を守っていく取り組みがしっかりとなされているなと実感しました」
と話してくれた。
佐渡は伊藤さんが目指す稲作がしやすい地域なのだと感じたのだ。
無農薬米に向き合う
無農薬米は除草剤を使用しないので水田内では除草機を使う。
「日中に作業するのが除草にとっては効果的と言われていることもあるので、なるべく日中に行うようにしている。
それが大変なんです。その時間帯は気温が高くて暑い時間。体力との戦いです。」と話してくれた。
水田内よりそれを囲む畦道に生えている草が害虫の棲家となる。
畦や道の草刈りは刈払機を使用。
草刈りをしなければ作業もしづらく、地域に住む人たちも通ることがあるため足元も見通しがないと危険なため
大事な作業なのだが体力を使う作業でもある。
伊藤さんは無農薬米の田んぼとは離れた場所に最小限に抑えた除草剤を使用する田んぼでも米を栽培している。
大変な無農薬栽培をなぜ続けているのか。
「やらずに済むならと言う思いも正直ある。でもやってみないと始まらない。里山を守るために始めたから説得力がほしかった。
どちらもやってるから言えることがある」と話す。
やってみてどうですか?と聞くと
「無農薬栽培はとても大変です。
無農薬のみを手間をかけて小規模でやるよりも減農薬でも無農薬でも広範囲の土地を管理できるように、
できるだけ手をかけずにやれる方が環境には良いのではないか?と今実感としてあります。」
と実際に取り組んだ経験を経て改めて伝えられることがあるようだ。
田んぼを維持すること自体が多様な生態系を守っていくことにつながるという考えだ。
それでもなお無農薬で続けているのは
「当然まだ進化しながら成長していくと思います。無農薬米をやることで私はまだ色々なやり方や技術を探っているんだと思います。
農薬も肥料も使わず手をかけず、良いお米をたくさん作られる方々が世の中にはいるので、私もできる方法を探っていて
無農薬を続けているのかなと思います」と伊藤さんのてんてこ米はまだまだ進化が続く。
里山で暮らすこととカメラ
現在は羽茂(はもち)地域で3町歩の田んぼを耕し暮らしている。
同じ地域で暮らすおじいさんやおばあさんからその土地で受け継がれてきた魔除けの馬を形作ったわら馬の作り方を
教えてもらったり手作りの蒟蒻を食べさせてもらうこともある。
もちろん周りの農家さんが農業の心強い先生でもある。
そんな里山での生活を伊藤さん目線で撮影したものを毎年写真集にしている。
伊藤さんにとっての美しいもの、面白いもの、田んぼのこと、地域の人、米作りの軌跡を
心とカメラのシャッターにおさめていくのだ。
「毎回最高傑作だと思うけど、翌年はなんじゃこりゃ。ということもよくある(笑)」とはにかんでいた。
そんなカメラ生活は初めの頃は伝えたいことを写真にしていたと話す伊藤さん。
「里山を守っていくためには研究者ではなく自分自身が農村に住んで農業をすることが大事なのではないかと農家になりました。
自然を学んだかどうかは関係なしに、農業を知らない人間が農業に取組んで生計を立てられるというのを証明するのが目標でした。
農業をやる人が増えてほしいと思ったからです。
当時はだれでも真似できるようにと思っていましたが、今は逆に人の真似はしようと思ってもできないと思っています。
ただ改めて農村に住む、農業をやる、自分のやりたいことをやるというのは、是非感じていただきたいと思います」
と自身の人生をもって、これからの道を迷いそれでも進んでいく方々に向けて伝えたい想いがあった。
環境学を農大で学んでも全く別の分野の企業に進むことが多いという現実を見てきた。
今はみんなに見てほしいと語る伊藤さんの写真集は文字にはしないメッセージが込められている。
好きな食べ方
Aコープで魚を買って刺身や焼き魚と共に
冷めかけのお米はほんのり温もりがあってよく味が分かる気がする
佐渡の藻塩をふりかける
体の調子が悪く他のものを食べれない時は玄米粥で栄養をとるようにしている
他地域にないトキを守っていく意識で環境を守っていくのに理想的な自然との折り合いの仕方をしているなと思いました。
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